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お気に入りの場所で、お気に入りの本と ー イラストレーター ハセガワ・アヤ 「きものと、読書」 vol.1

お気に入りの場所で、お気に入りの本と ー イラストレーター ハセガワ・アヤ 「きものと、読書」 vol.1

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着物を好きになって「今日は何を着ようか」の選択肢が増えて、お洒落をする楽しさが倍増しました。それってやっぱり最高だな、年齢を重ねるごとに似合うものが変わってゆく「着物」に出会えてよかった、この本を読むとあらためて思うのです。

激しく暑い夏が終わり、突然秋が始まりました。名残惜しい気持ちで浴衣を仕舞い、単衣の準備を始めると単純なものでもう気持ちは秋を迎えるワクワク感に包まれています。盛夏、夏から秋の変わり目、私はこの2つの季節が大好き。

急に空気が澄み始める今の季節は過ごしやすくて夏の終わりのセンチメンタルな気持ちも相まっていつもより一人でぼんやり過ごすのが好きになります。そんな時のお供を何冊かご紹介させていただきます。

『琉球布紀行』澤地久枝

『琉球布紀行』澤地久枝

青い空と海に憧れて旅に出た沖縄。旅するごとに惹かれてゆき、今では年中想いを馳せている場所。特に石垣島を始めとする八重山諸島が本当に好き。着物を着るようになって産地の織物に興味を持つようになって1番最初に手に入れたいと思ったのが八重山ミンサー織りでした。

ミンサー織りには五つと四つの絣の柄に「いつ(五つ)の世(四つ)までも末長くしあわせに」、帯の両端に入るムカデのようなヤシラミ柄は「足繁く通ってくださいね」という想いが込められていて女性が織って愛しい男性に贈ると聞いてもうズキューンとヤラレてしまったのがその理由です。私はロマンチックに弱いのです。

何度目かの旅で半幅帯を手に入れ、今は色違いで2本持っています。平織りでしっかり織られた生地は締めるとキュッと心地よく、最初渋いなと思った柄ゆきも歳を重ねるごとに顔にしっくり馴染んできて本当にお気に入りです。

前置きが長くなりましたがそんなわけで琉球の織物についてもっと知りたくなり手にしたのがこの本。作者の澤地さんが2年と50日実際に沖縄に住んで書かれた文章は表面だけの美しい琉球の織物の話だけではなく、沖縄で暮らす人々の心の奥に根ざす「戦争」という重く大きな避けては通れないテーマもしっかりと書かれています。

戦争で夫や子を失い、残された子を抱えて布を織って生きていく女性たちの強さとたくましさ、そこから生まれる布の繊細さ。島々に布があり、それぞれの物語がある。読んでいるとこの布が今もなお残っていることの素晴らしさと残そうとしてきた人々の想いが伝わり私はますます琉球布に恋い焦がれてしまうのです。読谷山花織の手巾(ティサージ)に込められた愛する人への想いを読んでまたズキューンとなってしまった。

最後の章の「逢えなかった人」に涙あふれる

最後の章の「逢えなかった人」では琉球布に全人生を掛けて生きた大城志津子さんという一人の女性の生き様に毎回涙が溢れてしまいます。「苦悩を抱いている人にしか、魂の入った布は織れないのよ」なんと重たく、深い。私なんぞ浅い…浅すぎる。

次に沖縄を旅した時は首里花倉織、読谷山花織、喜如嘉の芭蕉布を見学に行きたい(欲張りだ)そしていつか着尺を手に入れたい。芭蕉布や八重山上布はまだまだ私には似合わないので歳を重ねてさらりと着こなせる成熟した女になりたいなと思っています。

『宇野千代きもの手帖 お洒落しゃれても』

『宇野千代きもの手帖 お洒落しゃれても』宇野千代

着物好きな方のバイブル的な本だと思うのですが私も大好きな1冊です。私はイラストレーターの仕事の他に「ばらいろ」という注染染めの浴衣をメインとした和装ブランドも立ち上げているのですが、作っていることに煮詰まってきたり自信が無くなって来た時にバーンと背中を叩いてもらっているのがこの本。

宇野千代さんの生き様はブルース・リーの名台詞「Don’t think,feel(考えるな、感じろ)」そのままの人。仕事も恋愛も思いついたらもう走り出している。いろんな男性と恋をし(梶井基次郎と東郷青児なんて私から見れば真逆のタイプ!)その度にとても純粋に相手に影響され、それが彼女の血となり肉となって作品に生かされていくという今で例えるなら肉食系な女性。

でも写真を見るとちっとも魔性の女という雰囲気ではない可愛らしい方。天真爛漫と言うのだろうか?当時の週刊誌には「幼女と妖女が内部に同居する」と書かれたそうです。なんてミステリアス。そんな風に言われたいものです

そんな彼女が着物のデザインをしたら…どんなにユニークなものが生まれるだろう。ちょっと想像するだけでワクワクしてくる。読み進めていくと「着物にヒールの靴」「着物にネックレス」なんだ、もう昭和20年代に既に彼女が始めてるやん、と面白くなってくる。

「着物を選ぶ時は顔の入る場所も計算に入れて」「頭のてっぺんから爪先までトータルバランスを考えて」という言葉にハッとさせられ「身なりのことに構わないでいるのが、さもさも、自慢のように言う人があります。私はそういう人が好きではありません」とバッサリ言い放つ気持ち良さにニヤリとする。

そして自分の作るものに対する絶対的な自信。中盤やたらと推してくる「三寸幅の細帯」に「千代さんそれはいくらなんでも細すぎじゃあありませんか」と心の中で何度ツッコミを入れたことか。チャーミングで、好きになったらフルスロットル、気がついたら私も宇野千代という女性が大好きになっていました。

着物を好きになって「今日は何を着ようか」の選択肢が増えて、お洒落をする楽しさが倍増しました。それってやっぱり最高だな、年齢を重ねるごとに似合うものが変わってゆく「着物」に出会えてよかった、この本を読むとあらためて思うのです。

そして厚かましいことを言いますが私も宇野千代さんと同じデザイナーという仕事ができてなんてしあわせなんだ、お婆ちゃんになってもワクワク夢見ながら注染の図案を描いていたいなと思うのです。

私も宇野千代さんと同じデザイナーという仕事ができて幸せ

『おんなのことば』茨木のり子

『自分の感受性くらい』で脳天をガツンと殴られたような気持ちになってから読み漁った茨木さんの詩の数々。この『おんなのことば』という詩集は文庫サイズのハードカバーで装丁や挿絵が可愛らしく、仕事机の横に置いて無作為にページを開いて出てきた詩を読んでいます。その度に「ハッ」とさせられる言葉の数々。

「花ゲリラ」というタイトルのセンスに感嘆のため息をつき、「わたしが一番きれいだったとき」を読んで涙が止まらなくなる、「娘たち」を読んで私の作品もどうぞ続いていきますようにと思う。

赤面症で自分の気持ちが上手に話せないことがコンプレックスだった私が心を揺さぶられた一節を少しだけ紹介させてください。

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく

『酌む -Y・Yに-』より抜粋

もう私この先ずっと、自信を持って生牡蠣で生きていくわ。
シンプルな文字に秘められた深い深い思いの数々。

シンプルな文字に秘められた深い深い思いの数々

『ばらいろ着物手帖』ハセガワ ・アヤ

実は私も今年書籍を出させていただきました。
この仕事を始めてからずっと憧れていたイラストエッセイです。

着物に出会って私の人生は大袈裟ではなく本当に深みを増しました。季節を感じることに敏感になったり、花の名前を覚えたり、伝統的なものに興味を持ったり、「着物に出会えてなかったら今頃私はどうしてるだろう」と怖くなるほど着物に出会えてからの私の人生は深みがあるものに変わりました。

着物ってなんて楽しいんだ!

この本は着始めた頃に私が抱いていた「着物って着てみたいけど難しい?」「着てみたいけどルールが多い?」という不安を解消するコツと「着物ってなんて楽しいんだ!」と感じた高揚感をいっぱい詰め込みました。

着物に慣れた方にも楽しんでいただけるように携わっている注染染めのこと、図案ができるまで、着物と映画、などコラムもたくさん盛り込みました。描き始めたらあれこれ止まらなくなって「好き」をぎゅうぎゅうに閉じ込めた愛で暑苦しい1冊になってしまいました。よろしければ手にとっていただけると嬉しいです。

着物に慣れた方にも楽しんでいただけるように

散歩の途中の喫茶店、立ち寄った川べり、いろんな場所で本を読むのが心地よい季節になりました。秋はついつい夜更かししがち。家族が寝静まった後、珈琲を淹れて静かな部屋で本を読むのが好き。10月は1日が中秋の名月で31日もまた満月。2年ぶりに満月が2回訪れるブルームーンの月。ピカピカのお月様を眺めながらお気に入りの本を読もうと思います。

みなさまも楽しき秋の夜長をお過ごしください。

読者プレゼント

ハセガワ・アヤさんより『きものと』読者のみなさまへ『ばらいろ着物手帖』を3名様へプレゼント!
下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

『ばらいろ着物手帖』

<応募方法> 各種SNSからのご応募となります。

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※応募期間:2020年10月20日(火)まで

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