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洋服感覚で着る”小千谷ちぢみ”の新しい楽しみ 「つむぎみち」 vol.8

洋服感覚で着る”小千谷ちぢみ”の新しい楽しみ 「つむぎみち」 vol.8

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『きものが着たくなったなら』(技術評論社)の著者・山崎陽子さんが綴る連載「つむぎみち」。おだやかな日常にある大人の着物のたのしみを、織りのきものが紡ぎ出す豊かなストーリーとともに語ります。

10月初旬でも暑い日にはこの小千谷ちぢみを

残暑はいつまで続くのでしょう。年々秋の訪れが先延ばしになり、9月はもちろん、10月に入っても、暑い日があります。「9月は単衣、10月は袷」という着物の暦を守るのはとうにやめました。体のためにも、着物や帯のコンディションのためにもよろしくありません。
今年は8月末から9月、そして10月初旬でも暑い日があれば、この小千谷ちぢみを着ようと思っています。

小千谷ちぢみというと、盛夏の麻着物の代表で、私も6年愛用している夏の1着があります。それに比べると、これは少し地厚で、透け感もほとんど感じられません。糸に撚りをかけてシボを出してはいるものの、全体としてはシャリっというより、ふわっとしています。
そんな小千谷ちぢみを、薄物、単衣、袷というカテゴリーではなく、「秋の普段着」としてワードローブに加えました。

私にとってこの柄はギンガムチェックです

小格子と説明されましたが、私にとってこの柄はギンガムチェックです。
思い起こせば、最初のギンガムの記憶は、5歳のピアノの発表会で着たスモッキングが施されたちょうちん袖。映画『小さな恋のメロディ』でトレーシー・ハイドが着ていた制服が好きで、パンフレットを元に母にワンピースを縫ってもらったのは12歳。その後もギンガム熱はおさまらず、大人になってからも、『コム デ ギャルソン』や『アニエス・ベー』でワンピースやシャツを見つけては着たものです。息子の体操着袋やお弁当包みまでブルーの生地で縫いました。そして、とあるきっかけから、ついに着物まで!

緊急事態宣言中の初夏のある日、インスタグラムの投稿を見ていたら、その着こなしセンスに憧れている素敵な方がギンガムのデニム着物を着ていらっしゃるのを発見。いつも上質な名品をしっとりお召しなのに、カジュアルなプレタもカッコよく着こなされ、すっかりノックアウトされてしまったのです。

以前お目にかかったこともあり、私の拙い勘違いや悩みにさりげなくアドバイスをくださる知識とお人柄も素晴らしく、「同じものを買いたいのですがいいでしょうか?」と甘えてお尋ねしました。快くメーカーや商品名を教えていただいたのですが、私に合うサイズがなく断念。以来、なんとなく頭の中に「ギンガム着物」というワードと映像が残っていたのでしょう。別の目的で出向いたお店で、たまたま出合ったのが、この小千谷ちぢみでした。

格子柄は案外難しいもので、見る分にはいいなと思っても、着るとちょっと違うということがありますが、このギンガムの大きさや色は私のイメージ通りでした。朝晩少し涼しくなったら、これに古い更紗や縞の帯を締めて、家で仕事をしたり、ちょっと近所までお使いに行ったりしたいなあ、と生活シーンもすぐに浮かんできました。中でもいちばん合わせてみたかったのが、大好きなブランド『ミナペルホネン』の“path”というテキスタイルで作られた紀亀さんの帯です。

ハイブランドの洋服生地を帯に仕立てる紀亀さんのセンスも、インスタグラムで知り、ずっと追いかけてきました。服地のテクスチャーと柄を見て、「これならこういう帯になる」と創作につなげる眼力と仕立ての技術は、並大抵ではありません。私と同じように新作を狙っているお客様が大勢いらっしゃり、すぐに売り切れてしまいます。そんな中、念願叶って最初に手に入れたのは、やはり『ミナペルホネン』の“タンバリン”でした。“path”も“タンバリン”も麻素材ですが、私は気にせず通年締めています。

生活シーンもすぐに浮かんできました

ギンガムの小千谷ちぢみに洋服生地の麻の帯。
愛着のある柄、愛用するブランド、好きをふたつ重ねました。
「着物だからこうあるべき」と自己規制せず、少し羽目を外すことから新しい楽しみが生まれることも。特に、普段着なら、素材感は心地よさ重視でいいと思います。麻だから夏と決めるのではなく、その感触や風合いが体感に合っていればいいのではないでしょうか。

手間ひまかけた苧麻の手績み、手織りが素晴らしいことは承知していますが、オーガニックラミーの紡績糸を機械織りしたこの着物にも、独特な味わいがあります。星のついたレストランもいいけれど、気軽で美味しい居酒屋も欠かせない。私にとっては、いい居酒屋を見つけることの方が大事だし、むしろ難しいことでもあるのですが、この着物はまさにご近所の行きつけのような存在です。

普段着ですから、自分で洗うことを前提に、衿裏には麻絽、居敷当てには綿のワッフルをつけてもらいました。お茶をこぼしても、水が跳ねても、気にしません。じゃんじゃん着て、じゃんじゃん洗う。今は糊づけした麻特有のハリ感がありますが、きっと数年のうちには糊が少しずつ取れて、体になじんでいくことでしょう。

木綿のワンピースのように、洗いざらしたデニムのように、洋服と同じ感覚で。
畳の上に正座じゃなく、ソファに寝転がれるくらいの気楽さで、着ようと思います。

小千谷ちぢみのコーディネート

・小千谷ちぢみ(杉山織物)
・『ミナペルホネン』pathの名古屋帯(紀亀の帯)
・近江麻の帯揚げ(きねや)
・冠組「ごま」の帯締め(道明)

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