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『玉乃光酒造』魂を醸す、純米主義の原点「着物で一献、ふわり上機嫌」vol.1

『玉乃光酒造』魂を醸す、純米主義の原点「着物で一献、ふわり上機嫌」vol.1

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着物を纏い、日本の伝統と文化に触れながら酒蔵を訪ねる新連載。記念すべき第1回目は、京都市伏見区にある『玉乃光酒造』へ。日本酒を愛してやまない『やおよろずJAPAN』代表よろずが感じた“日本酒物語”を綴ります。

2025.07.07

京都をめぐる

『季の美 House』でジャパニーズクラフトジンを堪能 「京都できもの、きもので京都」vol.20

日本酒の世界へようこそ!

玉乃光酒造の通りはかすかにお酒が薫る

京都・伏見の通りはかすかにお酒が薫る
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2024年に、日本の伝統的な醸造技術が世界の「守るべきもの」として、「ユネスコの無形文化遺産」に登録されました。今や国内に限らず、世界的に注目と人気を集めています。

今回は、豊かな水と歴史ある街、京都の伏見にある『玉乃光酒造』へ伺います。

伏見と聞くと、伏見稲荷大社を想像される方が多いと思いますが、日本酒の町としても有名なのはご存知でしょうか? 実は「日本酒の酒蔵」がとても多い町なのです。

玉乃光さんの看板を発見

玉乃光さんの看板を発見

日本酒造りは、9月から準備期間に入り、3月までが最盛期。この時期は蔵が近くなると、通りにお米の香りがふわりと鼻先をかすめます。酒造りの始まりの季節、なんだか素敵な物語に出会える予感がして、とてもワクワクします。

和歌山から伏見へ。諦めない想い

『玉乃光』

1673年、和歌山で創業。のちに京都・伏見へ拠点を移し、名水『伏水ふしみず』を活かした酒造りを70年以上続ける『玉乃光酒造』。

“純米酒への回帰”を宣言し、現在も米と水、麹のみで仕込む酒造りを貫きます。

『玉乃光』の名は、熊野速玉大社より拝受したもので、御祭神のイザナギ様とイザナミ様の “御魂が光を放つように” と願いが込められているそう。

酒蔵をご案内いただきます

酒蔵見学スタート

江戸時代、徳川御三家・紀州藩のもとで酒造業を許された『玉乃光酒造』。和歌山県に蔵がありました。

しかし、太平洋戦争の際に蔵が全て焼け、土地も失ってしまいました。そんな状況でも、当時の11代目は決して酒造りを諦めませんでした。

酒蔵や日本酒の話はつきません

仕事内容を聞いてワクワク

全てを失う経験は、計り知れない痛みだったでしょう。それでも11代目は、不屈の精神で次の一手を模索します。そしてゼロからの挑戦を敢えて選び、日本酒に欠かせないお水や、美しい自然が豊かな「京都・伏見」への移転を決意。蔵の立て直しをスタートさせました。

この逆境でも諦めない力強さが、新しい土地で物語を宿し、現在の玉乃光酒造があるのです。

百年蔵の「東蔵」は、“酒の蔵”から“文化の蔵”へ

玉乃光の酒造りを支えてきた、築100年の「東蔵」をご紹介いただきました。以前は、こちらで酒造りをしていたそうですが、現在は老朽化のため閉鎖。壁をついたてで支えながら保存されている箇所もあります。

耳を澄ますと、当時の蔵人たちの息づかいが聞こえてくるよう……。とても感慨深い時間を過ごすことができました。

酒の蔵から、文化の蔵へ

改修工事後は、人が集まる場所へと変貌を遂げるよう。楽しみですね!

今後、昔ながらの面影を残したまま改修工事を行い、人が集える場所を構想中だそうです。2023年に、350周年を機に発足し『350 × プロジェクト』は、国内外のアーティストと玉乃光酒造がコラボするプロジェクト。作品展示もこの東蔵で構想中だとか。

「酒の蔵から、文化の蔵へ」

完成が楽しみです。

ほどけるような口溶け。「米麹」を味わう

蔵の中にある貯蔵用の日本酒のタンク

蔵の中にある貯蔵用の日本酒のタンク

本社に併設された現在の酒蔵では仕込みの真っ只中。

日本酒は温度管理も大切なため、蔵の中は常にヒンヤリしています。日本酒を貯蔵する大きなタンクがいくつも設置されていて圧巻です。同時に、今期の日本酒の出来上がりが楽しみで仕方ありません。

着物で酒蔵を案内いただく

蔵の内部はいつも緊張します

日本酒の起源は諸説ありますが、八百万の神に捧げるための神聖な飲み物として造られました。神事や祭祀のみで日常の飲み物ではなかったとか。蔵の見学に行く度に、とても神聖な場所にお邪魔している気持ちになり、緊張してしまいます。

日本酒の仕込み工程で使用する米麹。味はほんのり甘い

日本酒の仕込み工程で使用する米麹。味はほんのり甘い

小皿に盛られた仕込み途中の「米麹」。

蒸した米に麹菌を繁殖させたものです。日本酒は発酵飲料なので、麹菌は欠かせません。ふんわりとした手触りと、ほどけるような口溶けに、米から酒へと変わる神秘を感じます。

酒造りをする蔵人たち

酒造りをする蔵人たち

日本酒造りをする蔵人たちの仕事を遠目に拝見しました。とても真剣に日本酒造りに向き合う姿が見て取れます。

こうして多くの蔵人が関わり出来上がった日本酒が、私たちの手に届くのだと思うと、心からありがたく思います。

玉乃光の決断は「純米酒とともに」

玉乃光の酒瓶

ブラックボトルと樽が並んでオシャレです

第二次世界大戦終戦直後は、粗悪なアル添酒が主流の時代でした。そんな中、玉乃光は、敢えて「純米酒」に舵を切りました。きっかけはなんと、和歌山から伏見に移転を決めたあの11代目蔵元の実体験。

「ある日、二日酔いをきっかけにすべての酒を純米に切り替えたところ、不思議と翌朝すっきり目覚めた」

それ以来、11代目は「純米酒主義」を貫くようになります。

幻の米と呼ばれた雄町米

幻の米と呼ばれた雄町おまち米  提供/玉乃光酒造

その時選んだ酒米は、栽培が難しく「幻の米」と呼ばれた「雄町おまち米」。逆境の中、どんな時でも酒造りに向き合ってきたからこその決断だったのでしょう。

この純米酒への切り替えの大英断は、今も続く玉乃光の伝統となっています。

酒造りの期間しかない原酒

ここで一献! フレッシュな香りと甘さが口の中に広がってとても美味しい。至福の表情です(笑)

発酵マニア! 酒粕事業部プロジェクトリーダー 山川結さん

酒粕事業部プロジェクトリーダー山川さん

酒粕事業部プロジェクトリーダー山川さん

酒粕事業部プロジェクトリーダーの山川さんは、自他ともに認める発酵大好き発酵マニア。大学時代に発酵や麹菌の研究をされていたそうです。

卒業後は、発酵が大好きなことが高じて玉乃光酒造へ入社。

日本酒には欠かせない「発酵」。実は私も発酵食品や発酵飲料が大好きで、日常に取り入れているので、いろいろとお話を聞きました。

発酵を通して日本酒への想いを話してくださいました

「発酵は微生物の営みであり、醸造はその営みに人の手を添えること」

山川さんはそう教えてくださいました。日本酒は、麹と人が呼吸を合わせ、温度と湿度を丁寧に整えながら “育てていく” 飲み物。発酵好きの私には、とても興味深いお話でした。

日本酒や発酵の話をたくさんお聞きました

また、こうも続けてくださいました。

「日本酒作りは自然まかせではなく、対話し、見守り、必要な瞬間にそっと手を差しのべるような世界」(山川さん)

話を聞いていると、だんだんと蔵人の皆さんが「赤ちゃんをあやす親」のように感じてきて、日本酒の世界がとても身近に感じられました(笑)。

日本酒の世界は本当に興味深い

山川さんとの対話を通して、人の技と目に見えぬ想いと、手間ひまを丁寧に織りなすからこそ、日本酒は長い間、継承されてきた伝統文化なのだと実感。大袈裟かもしれませんが、日本酒は多くの人の想いや物語を背負う“魂のお酒”なんだと思います。

手間ひまをかけるより、時短、コスパが一般的な価値観になってきた現代。物事の価値観もどんどん変わっていく中で、ひたむきに目の前の一滴と向き合う。地道な作業の連続がやがて伝統を築き、文化となって日本酒の世界に深みを与えていくのだと深く惹き込まれました。

着物ファンにおすすめ!この日本酒

この連載を通して、私がどうしても聞きたかった「着物ファンにぴったりな日本酒」のオススメ。

山川さんのオススメは、玉乃光酒造『TAMA』でした。

山川さんオススメの1本「TAMA」

山川さんオススメの1本『TAMA』は、女性にも人気のお酒 提供/玉乃光酒造

ワイン酵母を使った一本で、香りは桃や洋梨を思わせる華やかさ。口に含むと、白ワインのように柔らかな甘みと酸味がすっと広がります。猫をあしらったラベルデザインも愛らしく、女性に人気が高いお酒です。

また今回は、お忙しい中お時間をいただき、羽場社長にも直接お会いすることができました!

社長がオススメしてくださったのは、紅白のコントラストが美しい、まさに“ハレの日”の着物にぴったりな『京の朱』。

玉乃光酒造代表取締役 羽場洋介社長と

玉乃光酒造代表取締役 羽場洋介社長と。「着物に似合うオススメの一本」とともに

京都の酒米『祝』を、じっくり時間をかけて醸した朱と鳳凰の縁起が良いラベル。祝福の日にふさわしい気品ある華やかな香りと味わいのある、玉乃光が誇る珠玉の純米大吟醸です。

玉乃光酒造代表取締役社長 羽場陽介さま

全量手づくりで酒造りを行っていることが強みと語ってくださいました。

伏見の一杯、未来の一歩。

「玉乃光 純米大吟醸 備前雄町100%」

手に持つお酒は、玉乃光の代表的なお酒「玉乃光 純米大吟醸 備前雄町100%

日本酒造りで欠かせない「米と水」への真摯な向き合い方、蔵に満ちる静かな時間、そして一本の瓶が語る物語を、現地で強く感じることができました。

玉乃光酒造のお酒は、伝統を守るだけではなく、逆境や変化に臆せず挑み続けた結果として生まれたもの。そして、蔵人たちの手間ひまと覚悟が宿っていると、今回の訪問で体感しました。

着物を纏い、酒蔵を訪ねるという旅はなんて贅沢なのでしょう。酒蔵には幾度か伺いましたが、着物を着て伺う経験は初めてで、いつもと景色が違って見えました。

「着物という日本の尊い伝統を身に纏い、一献を味わう」

着物で日本酒蔵に赴く経験は、他では味わえない時間を与えてくれます。時代を行き来するような、不思議な体験となりました。

玉乃光さんにて

玉乃光さんにて。次はどんな素敵な物語と出会えるのだろう

次回もやおよろずJAPANと一緒に「着物で日本酒に出逢う旅」へ出かけてみませんか?

着物で歩けば、景色が染まる――

さぁ、いずこへ。

撮影/松村シナ
着付け/着つけヒラリ

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